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2005/05/07

Beatセミナー05-2 「人と森林」「マルチメディア人体」

今日はBeatセミナーの本年度2回目。

本年度のBeatセミナーは、歴史に残る様々な教育コンテンツやシステムなどをレビューし、再評価し、そこでなされた「歴史上の過ち」を記述していこうとしている。

今日の題材は1990年にNHKとアップルコンピュータジャパンが共同で制作した「人と森林」、NHKスペシャル「驚異の小宇宙・人体」をCD-ROM化して1996年に発表された「マルチメディア人体」。

まずBeatの客員助教授でもあるNHKエデュケーショナル教育部チーフプロデューサーの宇治橋祐之さんが2つのコンテンツからコンセプト、開発の狙い、制作ストーリーなどをレビューしてくださった。

「森と森林」は小6の理科を対象としたもので、ハイビジョン番組(15分の実写番組)+電子印刷教材(ハイビジョン画質でA4にプリントアウトできるもの)+マルチメディア学習システム(LD+スーパーカード)で構成された教材。

スーパーカードというのは「ハイパーカードのすごい版」だそうだ。動画や静止画をそれぞれの学習者が取り込んだり、画面に書き込んだりすることができる。

また、番組は実写のみでつくり、キャラクター類は登場させなかったそうだ。それは「キャラクターを出すと視聴する学習者(子供)がその影響を受けすぎる。それよりは自然の映像をみせて自分たちで考えて貰おう」という意図だったそうだ。

この教材セットのミソは
・15分サイズの番組を短く切って好きなところを見ることができる
・関連の画像を見ることができる
・それらを自分なりに編集することができる
といったところだったそうだ。

その背後にある世界観は「学習者が主体的に学習の内容・方法を選び取ることができれば、素晴らしい学習がなされる」というものだったが、「それはガセ。インタラクティブで(さえ)あれば良い教材という『インタラクティビティの神話と誤謬』が歴史的に繰り返されている」(by山内先生)。

インタラクティブな教材を使って、自分だけで学習できる子供はせいぜい5%位で、あとの子供達は興味を持つところまで至らず指導や支援が必要、というのが現実だという。このあたりが今回の「歴史的な誤り」の一つ。

実際に「人と森林」の映像もどこからでも見ることが出来たのだが、制作者の思惑をよそに子供たちは端から全部見ていったという。これを山内先生と宇治橋さんは「総当たり症候群」と呼んでいた。

とはいえ、この「人と森林」も決して「悪い教材」だった訳ではない。何人もの先生がこれらの教材を使い素晴らしい授業を展開されたという。ここからの学びは「教材だけでは(それが素晴らしい教材で合ったとしても)素晴らしい授業は出来ない。そこにはしっかりした授業設計が必要」ということだったという。


もうひとつの「マルチメディア人体」は1996年に発表されたもの。このコンテンツは、多くの賞を受賞している。

NHK特集で評価が高かった番組をパッケージ化したもので、「病原菌に冒されたダ・ヴィンチを救う」というストーリーで人体や病気、健康維持などについてまなぶ5つのゲーム(「ナビゲーションゲーム」と呼ばれる)と、そのヒントになる人体映像百科事典「ダ・ヴィンチの書」から構成される。

このコンテンツは先に書いた「インタラクティビティの誤謬」に対する反省として、自由に選びながら学習するハイパーメディアではなく、5つのゲームを通じて興味を持つようにしたところがミソ。
美しいCGも魅力的だ。

長期間かけた制作の功罪というこぼれ話があった。92年から4年間かけて作った、ゆっくりじっくり作ることができたのはプラスだったが、95年にWindows95がデビューしそちらが普及しそうだということが分かったため、mac用に作ったものを、Windows用でも使えるように移植しなくてはならなくなったそうだ。確かに長期間掛けると、デバイスやOSやソフトのトレンドやバージョンが変わってしまうため、前提が崩れることもありそうだ。

これら2つのコンテンツの大きな差は、前者(人と森林)がどちらかというと教授者(先生)向けで、クラスルームにおいて授業で使うことを想定していたのに対し、後者(人体)は学習者向けで個人が一人または少人数のグループの子供(たち)が先生の指導・サポート無しに学習することを想定した点だそうだ。

そのため、「人体」には学習方法や学習を促すためにエージェントが起動して学習の仕方を示唆したり、一定時間使わないと音声で学習を促したり(パソコンがボソッと独り言を発するみたいでちょっと笑えた)するようにした。

レビューの後は「その場でラウンドテーブル」として、突然指名された3人のパネラー+山内先生+宇治橋さんのディスカッション+会場とのやりとりを行った。

主な話題は
・発表ツールはなぜ使われないか
・エージェントによるサポートの是非
といったものだった。

詳しくはBeatのWebサイトにそのうち掲載されると思うので、僕の印象に残ったことをいくつか。

第1に「発表」について。山内先生から「発表の神話」というお話があった。「発表をすれば良い学びになる、といった考え方も誤謬。そんなことは無くて、むしろ儀礼化してしまった発表も多い」ということ。

僕もこの意見には賛成。企業内の教育でも「議論をし発表をすれば学びが深まる。(議論や発表をしないと学びは深まらない)」みたいなことを言う人がとても多いんだけど、実際にはそんなことはなく、ちゃんと議論や発表に至るまでのプロセスや、議論や発表での目的・目標をデザインしないと学びは深まらない。議論や発表は座学より楽しいことが多いので、アンケートでは好評になる傾向はあるけど・・。

そういったことを考えると、個人の学習で「発表ツール」が使われないのは当然といえば当然かもしれない。

逆にうまく「発表ツール」が使われる状況があるとすれば、まず何を学ぶかがあって、そのゴールとして発表がデザインされていて、その上で学習するためのリソースとしてこういったコンテンツがある、といったように学習や授業のデザインがきっちりなされているような場合だと思う。

結局のところ、「学びのための発表」「発表のための学び」「発表のための発表」のいずれになっているかを考える必要がありそうだ。

第2に「エージェント」について。
これについてはパネラーの一人の榊さん(長年、教育映画や産業PR映画の制作に携われた方)が「マルチメディア教材の内容が豊かになればなるほど、エージェントなど学習者へのフォローが必要になる。となると、教材が豊かになることで、学習が本当に良くなっているのだろうか?という疑問を持たざるを得ない」とおっしゃっていたのが非常に印象的だった。

確かに、メディアリッチになって、情報量が多くなり、学習手順や方略の選択肢が増えると、逆にどうすればよいか分からなくなってしまうことってありそうな気がする。教育コンテンツだけでなく、Webサイトなんかでもそうだ。

メディアリッチになる→エージェントなどでフォローする→さらにメディアリッチに・・・・というのもいたちごっこな感じがする。逆にエージェントやフォローが不要なところ(コンパクトさ)で意図的に止めておくのもひとつかもしれない、なんてことを思った。

それと、聴衆側の一人だった東工大の鈴木さんから「エージェントを先生ではなく、一緒に学ぶ共同学習者として、よりうまく学ぶ人の学び方を見せる」というアイディアも提示された。確かにパソコンに出てくるマンガのエージェントから説教垂れられるよりは、一緒に学んでくれる方が良いかもしれない。

それと、エージェントもどんな示唆をするどんなキャラをどんな年齢層の学習者に当てていくか、という組み合わせで、結果はかなり変わりそうな気もする。このあたりの研究にも期待したい。

ということで、今回も刺激的なセミナーだった。
詳しくはそのうちBeatのサイトに掲載されると思うので、そちらをご覧ください。

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コメント

いつもご参加いただいてありがとうございます!こうして参加レポートを書いていただけるのもとても嬉しいです。

「発表の誤謬」の話は、なんだかすごく大きな課題をはらんでいるような気がします。ラウンドテーブルで榊さんがおっしゃっていた「問題意識を持たせることこそが難しい」というのもこれと対になる大きなポイントなのではと思いました。

「エージェント」の話題もおもしろかったですね。まっさらな状態では問題意識をうまく持つことは難しいです。はじめは「問題の気づき方」や「おもしろがり方」を見せてくれるような援助者が必要な時期が必ずあると思います。

教室の中であれば先生やちょっとカンのいい友達が、必要なときにいいお手本になってくれるのですが、自学自習教材では、それを先立って決め打ちで用意しておかなければならないのが難しいところだと感じています。どうすれば学習者のひとり立ちまでをうまく補助できるのか、エージェント研究のこれからに期待したいと思いました。

今年のbeat seminarは昨年度とがらっと趣向を変えて、みなさんと一緒に課題を深く掘り下げていく感じが楽しいですね。これからももっと刺激的な研究会になるよう運営がんばりますので、ぜひおチカラ貸してください!

投稿: なかのまい@ベネッセ | 2005/05/10 00:06

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