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2006/11/12

学習科学は学びのあり方を変えるか?

20061111beat
BEAT 'Special' Seminar「学習科学とICTは学びのあり方を変えるか- 高等教育の変革を事例として -」を聴講してきた。講師は世界的な学習科学であるRoy D. Pea (スタンフォード大学)、日本を代表する学習科学研究者の大島 純 (静岡大学情報学部 )、そして、世界的な認知学習科学者である三宅なほみ (中京大学)の3先生。日本でこの3人が揃うのは初めてという超豪華メンバー。大島先生と三宅先生のお二人のそろい踏みもそうめったには見られない。

Roy D. Pea さんは、DIVER (Digital Interactive Video Exploration and Reflection) を中心とした講演。Diverはその名の通り、ビデオを使って協調的に(経験を共有し、省察しながら)学習していくためのシステム。利用者は360度撮影したパノラマのビデオのある部分を選び切り出す(これをDiveという)ことができる。

使い方についてPeaさんは「プロフェッショナルビジョン」というコンセプトで説明していた。Diverを使って、その分野の専門家がどのようにものを見ているのかを学習し、その専門分野における擬似的な社会経験をすることでプロとしての視点(プロフェッショナルビジョン)を身につけていく、というものだ。

たとえば教員養成のために、教室のビデオを使って、その教室での学習者がどのような学習をしたかを省察し、その際に熟練教員の視点と自分の視点を比較させること、といった使い方を試行しているそうだ。

確かにプロを育てる上では、プロとしての視点、つまりプロは何に注目しなくてはいけないか、何を見落としてはいけないかの学びはとても重要だと思うし、重要なんだけどその教育や学習は割と難しい。Diverのようなシステムを使って、ある経験を後からじっくり複数のメンバーで省察するというのはかなり面白いし役に立ちそうだ。

大島先生の講演は学習環境のデザイン研究からの知見。冒頭に「ICTを導入しただけでは効果が無い。それが自分にとってどの程度役に立つかを学習者が考える、学習者がデザイナーの視点をもってリフレクションをかけることによって、効果が生じる。」と述べられていた。学習者がデザイナーの視点を持つ、というのは言い得て妙だと思った。

また「協調的な学習が良い、という世界観で協調学習を進めようとしたが、学生側は『協調学習なんていやな物。ほっといて欲しい。Leave me alone!』って感じでショックだった」という話や、「だから『協調学習って良いよね』って言わせしめるためにJasperをやらせたところ、みんなハマった」という話がとても面白かった。

三宅先生の講演は、まず最初に大島さんのプレゼンを受けて「みんな一人で考えることに慣れていて、みんなで一緒に考えるということをしていないのかもしれない。それを何とかしたいよね」というお話から始まった。

そして、大学での学習の目的を
・Portability=学んだ場所から別の場所に「持ち出せる」
・Dependability=必要な時にきちんと使える
・Sustinability=知識として長く使える。そのために補修や作りかえが可能
という3つのコンセプトで説明してくださった。これらは企業内教育・社会人教育でもまさに(というかそれらであればいっそう)大事なことだと思う。

そして、この3点は「領域知識を『良質な』スキーマとして獲得していくことによって成立する」というお話を、ご自身の実践的な研究を例に説明いただいた。

その後、お三方のパネルがあって、結構刺激的な話が多かった(下手に書くと誤解を招きそうなので、ここでは書かない。後日アップされるであろうbeatサイトでの報告を見て欲しい)。

最後に、日本ではあまりメジャーなものとして扱われていない学習科学を今後どのようにプロモーションするか?という質問に対するお三方の答えをご紹介しよう。

大島先生
「いろんな意味で、学ぶことの必然性、必要性が高まってきている中で、今までやられてきた教育関係の研究は今の現実的な問題とかけ離れていたこともあると思う。そこから言うと、何らかの拍子に学習科学の知見に触れたり、研究者に出会ったりしたときに、「あ、これって自分の求めていた答えに近い」と思ってもらえるかもしれないし、そうありたいと思う。自分としては、間違ったことを言っている人に「それはそうじゃないんです」と言わないようにしている。学習科学は学習者中心の立場なのだから、自分も否定的なことは言ったり・したりしないように心がけている。」

三宅先生
「Learve me aloneな状態になるのではなく、一人ではものが動かない。人間これ以上賢くなることはありえないいということでは無いとすれば、今のレベルの判断力しか人間が持ち得ないのであれば、人間に将来は無いかもしれない。私たち自体がサステインしたければ、もっと賢くならなければ。その要否を決めるのはあなた。そして、やっぱり人間って面白い。人間観察のサイエンスは面白い。その一番面白いのは人が変わっていくのを見ること。それが面白くないはずが無い。だから、学習科学は重要で面白い。」

Pea先生
「いかにして、知識をえるためのざまざまなパスを考えるのが学習科学。学習科学の中で、トレーニングの効率化がテーマだった。それはイノベーションの分野でもあった。脳のレベル、個人の行動、グループや組織の行動において、効率性を確保するために様々な知識を集め、急速に変化する社会に対応する必要があるからだ。つまり、
イノベーションと効率性のバランスを常に考えなければならない。そして、イノベーションが無ければ効率性を確保できない。それらをどう達成するのか、専門知識をイノベーティブかつ効率的に提供できるかどうか、が学習科学にとって重要なテーマだ。」

このお三方のまとめを聞いているだけでもワクワクするよね。

学習科学は学校教育の文脈で語られることが多いけど、企業内教育・社会人教育でもとても有益だと思っている。僕の連載を担当していただいている日経BPヒューマンキャピタルラボの新出所長もいらっしゃっていたんだけど、僕と同じように「この分野は社会人や企業内の教育で使えそう」という印象を持たれたそうだ。

ということで、「学習科学とICTは学びのあり方を変えるか- 高等教育の変革を事例として -」というセミナーだったけど「学習科学とICTは学びのあり方を変える-企業内教育・社会人教育の変革のヒント -」というタイトルをつけたくなるようなすばらしいセミナーだった。

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